田園の憂鬱と病める薔薇は画数だけでも大変です、5月の風をゼリーにしてもってきてください

 祖父からもらった自転車が盗まれた。一週間後の夜11時頃、国鉄目黒駅の西口で、鍵を壊された状態でそれを見つけると、ほっとして遠慮なくそれに乗って帰った。ふと権之助坂の途中で妙な感覚を覚え、振り返ると、そこには自転車に乗った警官がゆっくり。自転車のライトは壊れていて無灯火。しばらく無視して、目黒新橋の交番で消えていただけたらと願うが期待はずれ。不安になって、大鳥神社の手前の細い路地に入るとそれが大失敗。当然、警官も細い路地に入り、倍速で加速して僕を呼び止めた。無灯火の注意の後、自転車の所有者か追及される展開。祖父から貰ったものだと主張するが、深夜に鍵の壊れた自転車は非常に分が悪い。

 「嘘を付いても、自転車の登録番号を調べれば分かるからね」
 僕を犯罪者扱いする警官と山手通りを仲良く中目黒に向かって歩き警察署。夜間のためか裏口に回るため目黒川の歩道まで行くと、叔母の家が見えて、非常に気まずい。叔母にばれたら大変なことになる。それだけは黙秘確定。

 警察署で自転車を押収され、隠し扉みたいな入口からエレベーターと階段、やがて暗い廊下を抜けると分けのわからぬ場所で取り調べ。自転車に名前を書いていたわけでもなく、客観的に自転車の持ち主を証明することも出来ず。命じられるままに、黒いインクで親指の指紋を押す。

 「指紋取る前に、自転車の登録番号調べてくれよ。祖父の名前だったら無実じゃないのか。」
 初めての取り調べと、指紋取りに動揺。そんなことよりも早くここから去りたい気持ち先行、とにかく頭を下げるだけしかなかった。
 
 

⇒特別編「目黒川でお花見する目黒区民はいない」に続く